前回の〈コラム〉ガーデンデザインでご紹介したエディブル・スクールヤードを紹介した翻訳書『食育菜園 エディブル・スクールヤード』http://www.pebble-studio.com/edibleschoolyard.htmがきっかけとなって、私たち菜園学習研究室 シード・アンド・グロウでは、カリフォルニア州で行われている菜園学習の取材を続けています。そのなかから今回は、エディブル・スクールヤードのある同じバークレー市のルコンテ小学校の学校菜園を紹介したいと思います。
このルコンテ小学校は、メキシコ人移民の子どもたちが多く通う小学校。スペイン語が日常的に話されていて、むしろ英語圏の子どもの方が少ないぐらいで、アメリカの多様な民族が共に暮らす社会の一面を垣間見る思いがしました。ここの学校菜園は始まってまだ5年ぐらいですが、大きな成果を出していました。子どもたちの栄養教育の一貫として「食べものは、どこから来るのか」を学ぶことをバークレー市全体で支援・指導していることから、学校菜園は今やバークレー市の幼稚園から大学まで、学校に図書館があるのが当たり前のように、ごくごく普通に存在し、そこでは教室で学ぶのと同じ様に菜園授業が行われています。
ルコンテの学校菜園は、校舎と校舎の間のスペースをうまく利用する形で作られていました。そう広くはありません。幅5m×長さ20mぐらいの細長い菜園ですが、そのなかには、道具小屋、集会場、コンポストエリア、鶏小屋など、狭い敷地ながら必要なものがうまく配置されていました。この畑は教室からもよく見えるので、子どもたちは自分たちが育てている野菜や、世話をしている鶏たちを日常的に観察することができます。コケコッコーと鳴く鶏は、学校生活の一部として大切にされていました。
そして、菜園を管理し、菜園クラスで教えるのは教師ではなく、市の教育委員会が派遣するガーデン・ティーチャーです。ルコンテ小学校のガーデン・ティーチャーは大学の農学部を卒業し、児童教育にも興味を持っているべンさん。彼は子どもたちにファーマー・べンと親しみをこめて呼ばれ、高学年の生徒たちにとってはよき兄貴分のような存在、先生に話せないことでもジョンには相談したりと、学校生活にすっかりとけ込んでいました。
取材したのは3月、一年生の授業が行われていました。毎年3月は全学年、マメ科植物の窒素固定についてを学びます。マメ科植物を緑肥として育てたり、野菜と一緒に育てることによって、化学肥料を使わなくとも野菜がよく育つことを、学年に応じたカリキュラムを組みながら教えます。根粒菌がマメ科植物のどこに付 いて、どんな働きをするのか、絵を描いたり、実際にガーデンで豆を育て、味わい、観察しながら子どもたちは豆がすごくパワフルな植物で、食べることでそのエネルギーを体に取り入れることができることを体験的に学んでいました。ルコンテ小学校の学校菜園を取材して感じたことは、学校菜園は校庭の中にあることがとても大切だということです。菜園は身近な場所にあってこそ、生活の一部になるからです。
ところで、バークレー市では学校菜園をすべての学校に義務づけていますが、 それによって何がいちばん変わったかを聞いたところ、「子どもたちの食べものに対する意識」が最初にあげられました。アメリカの子どもたちを取り巻く食環境は深刻で、低年齢層での糖尿病、成人病の発生率が高く、社会問題にもなっています。その背景にあるのはポテトチップスとコーラなどで食事を済ませる子どもが多いことや、家族が一緒に食事をする機会のない家庭環境です。そうしたなかで、学校菜園が子どもたちにもたらしたことは、「食べるものは自分たちで育てることができる」という意識だと、ルコンテ小学校の先生は話していました。これは、実はとても大きな意味があると思います。また学校菜園は、教室では全く目立たない子が、菜園では思いがけない力を発揮する場所でもあるとも話していました。穴堀が好きだったり、植物の世話が上手だったり、と教師が気づかない子どもたちの資質や輝きを私たち大人が見失わないために、菜園が大きな力になっているのです。
(Text by Hiroko Horiguchi http://www.seedandgrow.net photo by Keisen Jogakuen University + Hiroko Horiguchi)
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。